いちおう、2013年の映画

一、2013年に見ておもしろかった映画。古いのと新しいのないまぜで10こぐらい。『カリフォルニア・ドールズ』(ロバート・アルドリッチ) 『アウトロー』(クリストファー・マッカリー) 『ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン) 『奪命金』(ジョニ…

夜顔

オープニングクレジットとともに始まるドヴォルザークの交響曲はまさに佳境に入っているっぽく、演奏しているオーケストラを正面からとらえたショットにいきなり直面させられ、おお盛り上がっているなあと思っていると、観客らしい禿げ頭の老人がまじめに音…

ムーンライズ・キングダム

前作のタイトルにちなんで、ファンタスティックMr.アンダーソンと呼びたくなるほど素晴らしい『ムーンライズ・キングダム』。 最近、劇場でやっている映画だと、イングマール・ベルイマンの『秋のソナタ』や、『ハートブルー』を撮った人だからという理由だ…

カリフォルニア・ドールズ

窮地に追い込まれても立ち上がる人々、屈辱にまみれても誇りを失わない人々は逞しく、美しい。 そういった人々の姿をロバート・アルドリッチは何度となく描いてきたが、そのフィルモグラフィの中でも『カリフォルニア・ドールズ』の女性たちはひときわ輝いて…

2012年の映画

2012年に映画館で見た映画の中から、特に好きになったもの、おもしろかったものを選びました。 見た順で発表します。<新しいの> 『テトロ』(フランシス・フォード・コッポラ) 『J・エドガー』(クリント・イーストウッド) 『果てなき路』(モンテ・ヘ…

恋に至る病

男女がぶつかった拍子に体と心が入れ替わり、おれがあいつであいつがおれになってしまう、という映画は昔あったが、男と女が性器だけを交換するという話は未だ嘗てあっただろうか。 入れ替わる、ということは、それだけでも当惑気味の幸せをもたらすが、人に…

Virginia/ヴァージニア

第一印象だけでモテるひとがいるように、映画にもモテるルックスというのはあるんじゃないかと思うことがある。もちろん、好きな異性(同性でもよいのだけど)のタイプがあるように、好きな映画のタイプというのはおそらくあって、他のひとにとってはそうで…

リチャード・ニクソンの愛

「マリファナを巻いた1本のジョイントは、1杯のウィスキーよりも1000倍いいね。リラックスできるし、頭の中でアイディアがクリアーになってくるのさ」 ・・・と語ったサッチモことルイ・アームストロングは、毎日ハーブでキメていたマリファナ愛好家で、ハー…

乱れ雲

目を伏せ、見上げ、睨み、顔を背け、振り返る。すれ違い、行き交い、見返し、包み込む視線。まなざしの映画。 じぶんにとって、最高の映画監督(のひとり)である成瀬巳喜男の、最高の作品(のひとつ)である『乱れ雲』。『乱れる』の高峰秀子は濡れていなか…

あらくれの雨

成瀬巳喜男、といえば、雨。 ということを言っても、おそらく差し支えない。成瀬の作品においてドラマが展開するとき、雨音が聴こえてくる、軒先や窓の外を見ると雨が降っている、というシーンには枚挙に暇がない。だから、枚挙するのはやめておこう。成瀬を…

アニュータ、気をつけて

チェーホフ『アニュータ』(松下裕訳)より 「右肺は三つの部分から成っている……」と、クロチコーフは暗記する。「その範囲!上部は前胸壁で第四、第五肋間に達し、側面では第四肋骨に……背後はスピナ・スカプラエ(肩甲棘)に達する……」 クロチコーフはたっ…

デコちゃんとマキノの映画渡世(阿片戦争編)

吉屋信子の原作を石田民三が映画化した『花つみ日記』に、高峰秀子が女子生徒の役で主演している。当時15歳のデコちゃんは、既に子役として何本も映画に出演してきたベテラン女優さんだからだろう、さすがに同世代の少女たちに囲まれると、いくら年齢的には…

E.T. PHONE HOME, B GOOD

初めて映画館に行ったのは、小学生になるかならないかの頃だったか。 小さい頃の記憶はあやふやだけど、映画館で初めて見た映画が『E.T.』であることはたぶん確かだ。 その次に覚えているのは『南極物語』で、その次がちょっと時間があいて『天空の城ラピュ…

聴こえてる、ふりをしただけ

自分を守ってくれるひと、自分にとって大切なひとを失い、突然、世界に放り出されたとき、無防備なわたしたちはどうやって生きてゆくだろう?そして、子どものときにそういう経験をするということは、どんなことなのだろう? 精神科の看護師でもある今泉かお…

妖術への病的な恐怖としての不安

アーサー・クラインマン『精神医学を再考する』(みすず書房)より。 マンソンと共同研究者[Manson et al. 1985]は、精神医学的な疫学研究と民族誌学的研究を組み合わせて、ホピ・インディアンの抑うつ状態(depressive illness)についての調査をおこなった。…

ゾムビィ・ダンス

久生十蘭の『復活祭』という短篇を読んでいたら、こんな一節が出てきた。 男と女の組が天上から糸で釣された操人形さながらに、死んだようなメロディにつれて千鳥足でよろけまわり、男と女が重なりあってぐったりと床にしゃがみこんだと思うと、起きあがって…

タクシー運転手あれこれ 〜2666、ライク・サムワン・イン・ラブ

(舞台はロンドン。フランス人、スペイン人のふたりの男、そしてその両方と関係をもつイギリス人の女が、タクシーに乗り込む。客はみな文学研究者) パキスタン人の運転手は、最初の何分間かは自分の耳を疑うかのように、バックミラーに映った彼らを黙ってみ…

青髭(bluebeard)談義

こどもの頃、絵本か何かで読んだ童話の『青ひげ』は、たしか、とっても怖かった。 青いひげを生やしたおじさん(お城在住)は、結婚をするたびに奥さんが行方不明になっていて、このたびまた新しい若い奥さんをもらいました。彼が住むお城には開かずの部屋が…

ポスト2666症候群

「ポスト2666症候群」 (1) 『2666』を読んだ後にこころにできた空洞を、他のどんな本を読んでも埋めることはできないこと。 (2) 約2kgの『2666』が入っていたかばんに他のどんな本を入れても、かばんが軽く感じられること。 約850ページの5部構成、現代のヨ…

第1回スローモーション会議(文体練習、温泉こんにゃく芸者、ソナチネ ビヨンド)

(沖縄、夜。短パンの男と短パンじゃない男の会話) 「東京どこ住んでんの?」 「中野」 「じゃあ、駅前のトミーって店、知ってる?」 「知らねえよ」 「結構有名なんだけどね」 「知らねえって言ってんだろ」 「・・・」 「・・・」 「あのさ、映画好き?」…

ごはん映画祭に『暴動・島根刑務所』を!

先日、山田五十鈴追悼特集で成瀬巳喜男の『鶴八鶴次郎』『芝居道』を見ながら、かつては成瀬であればその他に『歌行燈』『旅役者』、溝口健二の『残菊物語』、マキノ雅弘の『殺陣師段平』とそのリメイク(マキノ風に言うならリピート)『人生とんぼ返り』、…

Playback

最近、映画に恋したこと、ありますか? 映画作家に恋したこと、ありますか? わたし、あります。 姓は三宅、名は唱、得物はPlaybackと申します。。。 中学生が校舎の内外を走り回って追いかけっこする『1999年』と題された僅か3,4分の作品のあとに、『やくた…

未知との遭遇

ふだん、わたしたちは、さもあなたのことわかっていますよというような顔をして、話をしたり、メールしたり、つぶやいたり、いいね!したりしている。 だけど、ふと我に返ったときに(「我に返る」と何気なく書いたけど、どっちが我でどっちが我じゃないのか…

動くな、死ね、甦れ!

来年就職したいところに提出する小論文を書こうとして、乳として、あ、まちがえたもとい、遅々として筆が進まず、今日いちにちウンウン唸った挙句、ほんとうにつまらない文章しか書けなかったことに、心底がっかりしているサタデー・ナイト、あと2日経てばマ…

世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと椎名林檎

この文章は、齋藤環さんの本について書いたものではありません。 椎名林檎さんをdisったものでもありません。 関係者各位におかれましては、あしからずご了承ください。 ****************** その女のひとの姿を初めて見たときの第一印象は…

夢から醒めたら

しばらく長い文章を書いていないせいか長い文章を書けなくなってしまったので、ためしに長い文章を書いてみむとてするなり・・・ *************** それにしても、夢の世界にまどろんでいるときの心地よさと心もとなさ、そして夢から醒めたと…