リチャード・ニクソンの愛

 「マリファナを巻いた1本のジョイントは、1杯のウィスキーよりも1000倍いいね。リラックスできるし、頭の中でアイディアがクリアーになってくるのさ」

・・・と語ったサッチモことルイ・アームストロングは、毎日ハーブでキメていたマリファナ愛好家で、ハーブの合法化を嘆願する手紙をアイゼンハワー大統領に送ったこともあるらしい。

そのサッチモと、大統領になる前のニクソンとの間で、こんな出来事があったとか。。。

 1950年代、ヨーロッパのツアーから帰国する際にサッチモは、当時は"ひら"の国会議員だったリチャード・ニクソンと同じ飛行機に乗り合わせた。ジャズの大愛好家であるニクソンはすぐにアームストロングに気づき、飛行中ずっと彼のそばにいた。感激をあらわにして、「あなたを国家の宝のように思っています」と語り、そして、「私こそがあなたの一番のファンです!」と宣言するのだった。
 ニュー・ヨークに到着すると、ニクソンは彼のアイドルに向かって、何か私があなたにお手伝いできるようなことはないでしょうか?と訊ねた。
 そしてそこでサッチモは、その絶好の申し出をとらえたのだ―片方の肩が痛むんだ、ということを口実にして、ニクソンに荷物を持ってくれるように頼む……2つのトランペット・ケイス……ハーブがぎゅうぎゅうに詰まったやつ、を。ニクソンは急いでそれらを持ってやり、当然のことながら(国会議員パスで)税関を何ごともなく通過した。
 と、そういう経緯で、のちに容赦ないドラッグ撲滅運動を宣言することになる未来の合衆国大統領は、カナビス愛好者の"雌ラバ(運び屋)"の役目を果たしたというわけだ。"なんてすてきな世界なのだろう(What a Wonderful World)……"。

(ブリュノ・コストゥマル著、鈴木孝弥訳『だけど、誰がディジーのトランペットをひん曲げたんだ? 〜ジャズ・エピソード傑作選』「ニクソン、アームストロングの"ラバ"になる」より)

だけど、誰がディジーのトランペットをひん曲げたんだ?―ジャズ・エピソード傑作選

だけど、誰がディジーのトランペットをひん曲げたんだ?―ジャズ・エピソード傑作選

しかし、ニクソンは果たしてサッチモを前にしてのぼせあがり、知らずして「ラバ」役をつとめたのだろうか。
ニクソンサッチモの荷物にマリファナが詰め込まれていたことを知らなかった」という前提に立てば、ジャズ・ジャイアンツの威光を前ではかのニクソンも吹けば飛ぶようなマヌケ、ということになるかもしれない。
だが、サッチモの大ファンであり、後に麻薬取締局を創設するニクソンのこと、もしサッチモマリファナを運んでいることを知っていた上でのことだとしたら・・・